「ドライアイ」って知っていますか?これは、涙が少なくなる病気のことです。

今日本に2200万人以上のドライアイ患者さんがいると推測されています。いったいドライアイってどんな病気なのでしょうか。また、涙が少なくなると何故困るのでしょうか。

そもそも涙は、涙腺で作られます。涙腺は、上まぶたのやや耳側にあり、そこから分泌される涙は、まばたきの度に、黒目と白目の表面を潤し、表面のバイ菌やゴミを排除し、また黒目に栄養を与えるのが仕事です。この涙が何かの理由で少なくなると、目が乾きやすくなり、黒目に傷が出来てしまいます。目が充血しやすくなったり、疲れやすく、ゴロゴロしたり、目のしつこい不快感に悩まされます。黒目の傷が多くなると、視力も低下してきます。また、コンタクトの入れ心地が悪かったり、コンタクトレンズで目に傷がつきやすかったりもします。

ドライアイとは?原因と種類を理解する

涙の役割とドライアイのメカニズム

涙は、目の表面を潤し、異物から目を守る重要な役割を担っています。涙は、目の健康を維持するために欠かせない存在であり、その機能が正常に働くことで、私たちは快適な視覚を保つことができます。

ドライアイは、涙の量や質の異常によって、目の表面が乾燥し、様々な症状を引き起こす病気です。涙が不足したり、涙の成分バランスが崩れたりすることで、目の表面が適切に保護されなくなり、不快な症状が現れます。

原因は様々で、加齢、乾燥した環境、コンタクトレンズの使用、VDT作業などが挙げられます。加齢に伴い涙の分泌量が減少したり、エアコンの使用などで空気が乾燥したりすると、ドライアイのリスクが高まります。また、長時間のコンタクトレンズの使用や、パソコンやスマートフォンなどの画面を長時間見続けるVDT作業も、ドライアイを引き起こす原因となります。

これらの要因が複合的に重なることで、ドライアイの症状が悪化することもあります。ドライアイは、放置すると角膜に傷がつき、視力低下につながる可能性もあるため、早期の対策が重要です。

"涙の質が悪い"ってどんな?

涙の主成分は水で、この涙はいつも目が乾かないように、瞬きのたびに少量分泌されて目の表面をうっすら濡らしてくれています。普通瞬きと瞬きの間は4~5秒ありますから、この間は目の表面が一様に濡れている必要があります。しかし重力で涙は下へ下がってしまうので、涙は一様に目の表面に付着しやすくなるためにムチンという物質(粘液)が目の表面と涙の間に存在し、涙が接着しやすくなっています。このムチンが少ないと、目が涙を弾いてしまうため、涙がすぐ下へ下がって表面からなくなってしまいます。

またこれとは別に、目の表面から涙が蒸発するのを防ぐために涙の最表層には油層が形成されています。この油層分は睫毛の付け根に並ぶマイボーム腺という穴から分泌されており、この油層が少ないと涙の蒸発量が多くなり、目が乾くようになります。

つまり涙は単なる水成分ばかりでなく、表層から、油層・水層・ムチン層の3層からなっているわけです。この油層やムチン層が充分でない時に"質の悪い涙"ということになります。

ドライアイの種類:涙液減少型と蒸発亢進型

ドライアイは、主に次の2つのタイプに分類されます。一つは涙の量が不足する「涙液減少型(水分欠乏型)」、もう一つは涙の質が低下し蒸発しやすくなる「蒸発亢進型(油分欠乏型)」です。


まず、「涙液減少型ドライアイ」は、涙の分泌量や産生量が低下することで、目の表面が十分に潤わなくなる状態です。このタイプは、加齢やシェーグレン症候群などの病気が原因となることがあります。診断にはシルマーテストが用いられます。これは、下まぶたの縁に小さな短冊状の濾紙を挟み、約5分間で濾紙にしみてくる涙の量で涙液分泌量を測定する検査です。


一方、「蒸発亢進型ドライアイ」は、シルマーテストでは涙の量が正常であるにもかかわらず、ドライアイの症状が現れるタイプです。これは、涙の質が悪いために涙が蒸発しやすくなっている状態を指します。近年、この蒸発亢進型ドライアイの中でも、特にマイボーム腺機能不全(MGD)によるものが増えています。MGDは、まぶたの縁にあるマイボーム腺が詰まり、涙の表面を覆って蒸発を防ぐ役割を持つ油分が不足することで起こります。この油分が不足すると、涙がすぐに蒸発してしまい、目の乾燥を引き起こします。MGDは、加齢や雑菌の感染、不衛生な状態、メイクなどが原因で起こることがあります。


MGD以外にも、蒸発亢進型の原因としては、結膜炎後に涙の成分であるムチンが不足し、涙が目の表面に均一に広がりにくくなることや、不完全な瞬き、コンタクトレンズの使用などが挙げられます。例えば、若い女性が"アイプチ"などで無理に二重まぶたを作ることにより、不完全な瞬きが生じ、ドライアイ(蒸発亢進型)を引き起こすケースも見られます。


このようにドライアイには異なるタイプがあるため、正確に診断し、それぞれのタイプに応じた適切な治療を行うことが非常に重要です。

見逃さないで!ドライアイのチェックリスト

以下の項目に当てはまるものが多いほど、ドライアイの可能性が高まります。ドライアイは、放置すると症状が悪化する可能性があるため、早期にチェックし、適切な対策を講じることが大切です。気になる症状があれば、眼科医に相談することをおすすめします。


* 目が乾く、ゴロゴロする

* 目が疲れる、かすむ

* 光がまぶしく感じる

* ものがぼやけて見える

* 涙がよく出る

* コンタクトレンズが合わない

* 目の不快感


これらの症状は、ドライアイの代表的な症状です。目が乾く、ゴロゴロする感じは、目の表面が乾燥しているために起こります。 目が疲れる、かすむ感じは、目の表面の乾燥や炎症が原因で起こることがあります。光がまぶしく感じるのは、角膜の表面が不均一になっていることが原因と考えられます。ものがぼやけて見えるのは、涙の不足や質の低下によって、目の焦点が合いにくくなっているためです。涙がよく出るのは、目が乾燥していることに対する体の防御反応として起こることがあります。コンタクトレンズが合わないのは、ドライアイによって目の表面が乾燥し、コンタクトレンズが刺激となるためです。

ドライアイになりやすい要因

1.瞬きが浅い人

2.VDT作業者(VDT:Visual display terminal=コンピューターディスプレイ作業)

3.睡眠不足・ストレス

4.空気の乾燥

5.薬物(風邪薬・睡眠薬・精神安定剤など)

6.全身的疾患(リュウマチ・シェーグレン・アトピーなど)

ドライアイの治療法:点眼薬から最新治療まで

涙液の流れ

涙液の流れ

涙腺で産生された涙液は眼の表面を一様に潤したあと約10%は蒸発し、残って古くなった涙液は眼の鼻側にある小さな穴「涙点」を通り、そこから眼と鼻をつなぐ「涙小管」から「涙嚢」「鼻涙管」を経て、「鼻腔」へ流れます。

基本の点眼治療:人工涙液、ヒアルロン酸点眼液

ドライアイ治療の基本は、点眼薬による治療です。 点眼薬は、目の表面を潤し、乾燥を防ぐ効果があります。 症状の程度や種類に応じて、様々な点眼薬が使用されます。人工涙液は、涙の量を補い、目の乾燥を防ぎます。 涙の成分に近い成分でできているため、副作用が少なく、安心して使用できます。ヒアルロン酸点眼液(ヒアレイン、ティアバランス)は、目の表面を保護し、潤いを保ちます。ヒアルロン酸は、保水力が高く、目の表面に潤いを長時間キープする効果があります。これらの点眼薬は、ドラッグストアなどで市販されていますが、症状が改善しない場合は、眼科を受診し、適切な点眼薬を処方してもらうことが大切です。点眼薬は、用法・用量を守って正しく使用することで、効果を最大限に引き出すことができます。また、点眼する際には、清潔な手で行い、容器の先が目に触れないように注意しましょう。

涙の質を改善する:ジクアス、ムコスタ、キープティア

ジクアス、ムコスタ、キープティアなどの点眼薬は、涙の質を改善し、ドライアイの症状を緩和します。これらの点眼薬は、涙の成分を調整したり、目の表面の炎症を抑えたりする効果があります。ジクアスは、涙の分泌を促進する効果があり、涙液減少型ドライアイに効果的です。 ムコスタは、目の表面の粘膜を保護する効果があり、角膜の傷を修復するのを助けます。キープティアは、涙の蒸発を防ぐ効果があり、蒸発亢進型ドライアイに効果的です。 これらの点眼薬は、医師の処方箋が必要です。眼科医は、患者の症状や目の状態を詳しく診察し、適切な点眼薬を処方します。点眼薬を使用する際には、医師や薬剤師の指示に従い、用法・用量を守って正しく使用しましょう。 また、点眼後に異常を感じた場合は、すぐに医師に相談してください。これらの点眼薬は、従来の人工涙液とは異なり、涙の質を根本的に改善する効果が期待できます。

涙点プラグ:涙の排出を抑える治療法

涙点プラグは、涙の排出口である涙点に小さな栓をすることで、涙が目の表面に留まる時間を長くし、乾燥を防ぐ治療法です。涙点は、目頭にある小さな穴で、涙は通常、涙点から鼻へと排出されます。涙点プラグは、この涙点を塞ぐことで、涙の排出を抑え、目の表面に涙を保持する時間を長くします。 シリコン製プラグや液体コラーゲン製プラグがあります。シリコン製プラグは、半永久的に使用できるタイプで、液体コラーゲン製プラグは、数ヶ月で自然に吸収されるタイプです。涙点プラグの挿入は、比較的簡単な処置で、外来で行うことができます。 ただし、涙点プラグが合わない場合や、感染症のリスクがある場合は、挿入を控える必要があります。涙点プラグは、涙液減少型ドライアイに効果的な治療法ですが、蒸発亢進型ドライアイには、あまり効果が期待できません。医師は、患者のドライアイの種類や症状を詳しく診断し、涙点プラグの適応を判断します。涙点プラグは、点眼薬による治療で十分な効果が得られない場合に、検討されることがあります。

マイボーム腺機能不全(MGD)へのアプローチ

マイボーム腺とは?ドライアイとの関係

マイボーム腺は、涙の油分を分泌する腺です。マイボーム腺は、まぶたの縁に沿って存在し、涙の表面を覆う油分を分泌することで、涙の蒸発を防ぐ役割を果たしています。マイボーム腺機能不全(MGD)は、この腺が詰まり、油分の分泌がうまくいかなくなる病気です。MGDになると、涙の油分が不足し、涙が蒸発しやすくなり、ドライアイの症状が現れます。 MGDは、ドライアイの大きな原因の一つと考えられています。近年、ドライアイ患者の多くがMGDを抱えていることがわかっています。 MGDの原因は、不衛生な状態、メイク、加齢、コンタクトレンズの使用などが挙げられます。MGDを放置すると、ドライアイの症状が悪化するだけでなく、炎症や感染症を引き起こす可能性もあります。MGDの早期発見と適切な治療が、ドライアイの改善には不可欠です。 眼科医は、MGDの有無を診断し、適切な治療法を提案します。

温罨法とリッドハイジーン:自宅でできるMGDケア

温罨法(おんあんぽう)は、まぶたを温めることで、マイボーム腺の詰まりを解消し、油分の分泌を促す方法です。温罨法は、自宅で簡単に行うことができ、MGDの症状緩和に効果的です。 蒸しタオルや市販の温熱アイマスクなどを使用し、まぶたを5〜10分程度温めます。リッドハイジーンは、専用の洗浄剤でまぶたを清潔に保つことで、MGDを予防します。リッドハイジーンは、まぶたの縁に付着した汚れや細菌を除去し、マイボーム腺の詰まりを防ぎます。市販の洗浄綿や綿棒に洗浄剤を染み込ませ、まぶたの縁を優しく拭き取ります。温罨法とリッドハイジーンを毎日継続することで、MGDの症状を改善し、ドライアイを予防することができます。これらのケアは、眼科医の指導のもとで行うことが望ましいです。 また、MGDの症状が改善しない場合は、眼科を受診し、適切な治療を受けてください。

 IPL(Intense Pulsed Light)治療(自由診療)

IPL治療は、特殊な光を照射することで、マイボーム腺の機能を改善する治療法です。IPL治療は、マイボーム腺の周囲の血管を拡張し、血流を改善することで、マイボーム腺の機能を活性化します。また、IPL治療は、皮膚の炎症を抑える効果も期待できます。 自由診療となり、費用は医療機関によって異なります。IPL治療は、通常、数回に分けて行われ、1回の治療時間は数分程度です。IPL治療は、MGDによるドライアイに効果的な治療法として注目されていますが、すべてのMGD患者に効果があるわけではありません。IPL治療を受ける前に、眼科医に相談し、自身の状態に合った治療法であるかどうかを確認することが重要です。 また、IPL治療には、副作用のリスクもあります。治療後、皮膚に赤みや腫れ、かゆみなどが現れることがあります。 これらの症状が現れた場合は、すぐに医師に相談してください。IPL治療は、MGDによるドライアイの症状を改善する可能性のある治療法ですが、費用やリスクを考慮し、慎重に検討する必要があります。

ドライアイ対策:日常生活でできること

加湿器で湿度を保つ

加湿器を使用したり、濡れタオルを干したりして、室内の湿度を40~60%に保ちましょう。適切な湿度を保つことは、目の乾燥を防ぎ、ドライアイの症状を緩和するために非常に重要です。特に、冬場やエアコンを使用する際には、空気が乾燥しやすいため、加湿器の使用が効果的です。 加湿器は、定期的に清掃し、清潔な状態を保つようにしましょう。濡れタオルを干す場合は、こまめに取り替えるようにしましょう。 また、観葉植物を置くことも、室内の湿度を上げる効果があります。加湿器を使用する際には、加湿しすぎにも注意が必要です。 湿度が高すぎると、カビやダニが発生しやすくなり、アレルギーの原因となることがあります。室内の湿度計を確認し、適切な湿度を保つように心がけましょう。 湿度計がない場合は、ドラッグストアなどで購入することができます。適切な湿度を保つことで、目の乾燥を防ぎ、快適な生活を送ることができます。

パソコン作業時は意識してまばたき

パソコン作業中は、まばたきの回数が減りがちです。画面に集中すると、無意識のうちにまばたきの回数が減ってしまうことがあります。 意識してまばたきをすることで、目の乾燥を防ぎましょう。まばたきは、涙を目の表面に広げ、潤いを保つために重要な役割を果たしています。 パソコン作業中は、1時間に1回程度、休憩を取り、目を休ませるようにしましょう。休憩時間には、遠くの景色を見たり、目を閉じたりすることで、目の疲れを和らげることができます。また、パソコンの画面の位置や角度を調整することも、目の負担を軽減する効果があります。 画面が近すぎたり、角度が悪いと、目に負担がかかりやすくなります。適切な画面の位置や角度に調整し、快適な作業環境を整えましょう。パソコン作業中は、意識してまばたきをし、目を休ませることで、ドライアイを予防することができます。

コンタクトレンズの適切な使用

コンタクトレンズを使用している場合は、使用時間を守り、適切なケアを行いましょう。コンタクトレンズは、目の表面に直接触れるため、使用方法を誤ると、ドライアイの原因となることがあります。 コンタクトレンズの使用時間は、必ず守りましょう。長時間装用すると、目の酸素不足を引き起こし、ドライアイの症状が悪化する可能性があります。 コンタクトレンズのケアは、毎日必ず行いましょう。レンズに付着した汚れや細菌は、目の炎症や感染症の原因となることがあります。 専用の洗浄液を使用し、レンズを丁寧に洗い、清潔な状態で装用しましょう。ドライアイ用のコンタクトレンズもあります。 ドライアイ用のコンタクトレンズは、保水性が高く、目の乾燥を防ぐ効果があります。眼科医に相談し、自身の目の状態に合ったコンタクトレンズを選ぶようにしましょう。コンタクトレンズを使用している場合は、定期的に眼科を受診し、目の状態をチェックしてもらうことが重要です。眼科医は、目の表面の状態や涙の量を測定し、ドライアイの有無や程度を診断します。 コンタクトレンズを適切に使用し、目の健康を維持しましょう。

まとめ:ドライアイと上手に付き合うために

ドライアイは、適切な治療と対策を行うことで、症状をコントロールし、快適な生活を送ることができます。ドライアイは、完治が難しい病気ですが、適切な治療と対策を継続することで、症状を軽減し、生活の質を向上させることができます。点眼薬による治療、生活習慣の改善、MGDケアなど、様々な方法を組み合わせることで、より効果的なドライアイ対策を行うことができます。気になる症状がある場合は、早めに眼科を受診しましょう。 眼科医は、ドライアイの種類や程度を診断し、適切な治療法を提案します。また、日常生活での注意点やセルフケアの方法なども教えてくれます。早期に診断を受け、適切な治療を開始することで、症状の悪化を防ぎ、快適な生活を送ることができます。ドライアイは、放置すると角膜に傷がつき、視力低下につながる可能性もあるため、早期の対策が重要です。 ドライアイと上手に付き合い、快適な毎日を送りましょう。

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