緑内障は、視神経が徐々に損傷し、視野が狭くなる病気です。これは、まるでカメラのフィルムに相当する部分に障害が起きるようなものです。通常、眼圧の上昇が主な原因と考えられていますが、眼圧が正常範囲内でも発症するタイプも存在します。このタイプの緑内障は正常眼圧緑内障と呼ばれ、日本人には比較的多いことが知られています。
眼球は、カメラに例えるとレンズに相当する水晶体や、光を取り込む絞りに相当する虹彩など、様々な構造から成り立っています。これらの構造が正常に機能することで、私たちは鮮明な像を見ることができます。しかし、緑内障によって視神経が損傷すると、これらの情報が脳に正しく伝達されなくなり、視野の欠損や視力低下といった症状が現れます。
緑内障の理解を深めるためには、まず目の基本的な構造と、それぞれの部分がどのように連携して視覚を形成しているかを理解することが重要です。
目玉(眼球)の中には、透明な水が入っています。この水は前房水といわれ、眼球内の組織に栄養を与え、また光の通り道としての透明性を確保しています。この前房水は貯まったままの水ではなく、新陳代謝として新しい水と入れ替わっています。つまり、眼内にこの水を新しく作るところ(毛様体)と、古くなった水を排出・吸収するところ(隅角)があります。この水の単位時間当たりの生産量と排出量のバランスで眼内の水の量が決まってきます。眼球の中は閉鎖された空間なので、この中の水の量が多くなったり少なくなったりすると、眼球の硬さが変わってしまいます。この眼球の硬さのことを眼圧といいます。正常者なら眼球内の前房水量は一定に保たれていて、結果、眼圧はほとんど一定で、日本人の平均眼圧は15mmHgぐらいです。正常範囲は10~20mmHgです。
しかし、隅角からの前房水の排出が、何かの原因でうまくいかなくなることがあります。これが、緑内障です。毛様体では前房水がいつも通り作られているので、隅角で前房水の排出が障害されると、眼内に前房水が貯まってきて眼圧が上がってきます。眼圧の上がり方は、原因によって(緑内障の種類によって)様々ですが、20mmHgちょっとの場合や50~60mmHgまで上がることもあります。
では、眼圧が上がると何故いけないのでしょうか。眼球内の一番奥には、眼底というところがあって、この眼底には視細胞が膜状に並んだ網膜(カメラに例えればフィルム)があります。この網膜の視細胞から神経繊維が出て、それが束になって視神経を作り、脳とつながっています。この視神経が、眼球から出ていくところを視神経乳頭といいますが、ここがとてもデリケートで圧力に弱いのです。眼圧が上がった状態(高眼圧)が続くと、眼圧で視神経乳頭が圧迫を受け、視神経が枯れてしまうため、失明してしまうのです。いったん視神経が枯れてしまうと、今の医学では治すことが出来ないので、緑内障はやっかいなわけです。
緑内障には、開放隅角緑内障、閉塞隅角緑内障、正常眼圧緑内障、先天性緑内障など、さまざまな種類が存在します。開放隅角緑内障は、房水の排水口である隅角が開いているにもかかわらず、排水機能が低下することで眼圧が上昇するタイプです。進行が緩やかなため、自覚症状が現れにくいのが特徴です。
一方、閉塞隅角緑内障は、隅角が物理的に閉塞されることで眼圧が急激に上昇するタイプです。激しい眼痛や頭痛、吐き気などの症状を伴うことがあり、緊急の治療が必要となる場合があります。
正常眼圧緑内障は、眼圧が正常範囲内であるにもかかわらず、視神経が損傷されるタイプです。原因はまだ完全には解明されていませんが、視神経の脆弱性や、視神経への血流障害などが関与していると考えられています。
それぞれの緑内障の種類によって、原因や進行の仕方、治療法が異なります。そのため、正確な診断と、それぞれのタイプに合わせた適切な治療を受けることが重要です。
緑内障は、高齢になるほど発症リスクが高まる病気ですが、40歳以上の方であれば誰でも発症する可能性があります。日本における緑内障の患者数は、近年増加傾向にあり、40歳以上の約20人に1人が緑内障であると推定されています。これは、決して他人事ではない数字です。
緑内障の発症リスクを高める要因としては、加齢の他に、家族歴、高血圧、糖尿病、近視などが挙げられます。特に、家族に緑内障の人がいる場合は、発症リスクが高くなることが知られています。また、近視が強い人も、緑内障を発症しやすい傾向があります。
緑内障は、早期発見が非常に重要な病気です。定期的な眼科検診を受けることで、早期に緑内障を発見し、適切な治療を開始することができます。40歳を過ぎたら、年に一度は眼科検診を受けることをお勧めします。また、家族に緑内障の人がいる場合は、より早めに眼科検診を受けるようにしましょう。
緑内障の初期段階では、ほとんどの場合、自覚症状が現れません。視野の異常は、通常、ゆっくりと進行するため、脳が欠損部分を補完してしまい、気づきにくいのです。そのため、視野の欠損がかなり進行してから、初めて異常に気づくというケースも少なくありません。
しかし、緑内障は放置すると、徐々に視野が狭くなり、最終的には失明に至る可能性もある病気です。早期に発見し、適切な治療を開始することで、進行を遅らせることが可能です。そのため、自覚症状がないからといって油断せずに、定期的な眼科検診を受けることが非常に重要です。
特に、40歳以上の方や、緑内障の家族歴がある方は、定期的な眼科検診を強くお勧めします。早期発見のためには、年に一度の眼科検診が理想的です。
緑内障が進行すると、視野狭窄が顕著になり、日常生活に支障をきたすようになります。視野の中心部分を残して、周辺が見えにくくなることが多く、まるでトンネルの中を覗いているかのような見え方になることがあります。また、視力低下や、夜間視力の低下(夜盲)などの症状が現れることもあります。
さらに、進行した緑内障では、立体感や距離感が掴みにくくなるため、歩行中に物にぶつかりやすくなったり、階段を踏み外したりする危険性も高まります。運転にも支障をきたす可能性があり、事故のリスクも高まります。
これらの症状が現れた場合は、速やかに眼科を受診し、適切な治療を受ける必要があります。また、日常生活においては、転倒予防のために、明るい場所での行動を心がけたり、手すりなどを活用したりすることが重要です。運転は、医師と相談の上、慎重に判断するようにしましょう。
緑内障の早期発見には、定期的な眼科検診が最も重要ですが、自宅でできる簡単なセルフチェックも有効です。例えば、片目を覆い、もう片方の目で視野の中心をしっかりと見つめた状態で、視野の端に何か見えない部分がないか、または歪んで見える部分がないかを確認します。これを両目それぞれで行います。
また、カレンダーや格子状の模様など、直線が並んだものを見たときに、線が歪んで見えたり、一部が欠けて見えたりする場合は、緑内障の可能性があるので、眼科を受診することをお勧めします。
ただし、セルフチェックはあくまでも目安であり、緑内障の早期発見を保証するものではありません。少しでも気になる症状があれば、自己判断せずに、早めに眼科を受診することが大切です。早期発見、早期治療が、緑内障の進行を遅らせるための鍵となります。
緑内障の検査において、まず行われるのが眼圧検査と眼底検査です。眼圧検査では、眼球内の圧力を測定します。眼圧が高いほど、緑内障のリスクが高まるとされていますが、正常眼圧緑内障のように、眼圧が正常範囲内でも緑内障を発症するケースもあるため、眼圧検査の結果だけで緑内障の診断を確定することはできません。
眼底検査では、視神経の状態を直接観察します。緑内障の場合、視神経乳頭と呼ばれる部分が陥没したり、周囲の神経線維層が菲薄化したりするなどの特徴的な変化が見られます。眼底検査は、緑内障の診断において非常に重要な検査です。
これらの検査は比較的簡単に行うことができ、痛みなども伴いません。緑内障の疑いがある場合、これらの検査結果をもとに、さらに詳しい検査が行われます。
眼圧検査と眼底検査で緑内障の疑いがある場合、視野検査とOCT(光干渉断層計)検査が行われます。視野検査では、視野の欠損の有無や、その程度を詳しく調べます。緑内障の場合、視野の中心部分を残して、周辺の視野が欠けていくことが多いです。視野検査の結果は、緑内障の進行度合いを把握するために重要な情報となります。
OCT検査は、視神経の断面を画像化する検査です。OCT検査によって、視神経の厚さを正確に測定することができます。緑内障の場合、視神経が薄くなるため、OCT検査は緑内障の早期発見や、進行のモニタリングに役立ちます。
これらの検査結果を総合的に判断し、緑内障の診断を確定します。
緑内障のタイプを特定し、適切な治療方針を決定するために、隅角検査や負荷試験などの精密検査が必要となる場合があります。隅角検査では、房水の出口である隅角の状態を観察します。隅角が狭くなっているか、閉塞しているかなどを確認することで、閉塞隅角緑内障の診断に役立ちます。
負荷試験は、眼圧の日内変動を調べるための検査です。緑内障の患者さんの中には、日中や夜間に眼圧が変動する人がいます。負荷試験を行うことで、眼圧の変動パターンを把握し、より適切な治療計画を立てることができます。
これらの精密検査は、緑内障の診断と治療において非常に重要な役割を果たします。医師の指示に従い、必要な検査を受けるようにしましょう。検査結果について疑問や不安な点があれば、遠慮せずに医師に質問することが大切です。
緑内障治療の基本は、眼圧を下げることです。最も一般的な治療法は、点眼薬による治療です。点眼薬には、房水の産生を抑えるタイプや、房水の排出を促進するタイプなど、様々な種類があります。患者さんの緑内障の種類や進行度合い、全身状態などを考慮して、最適な点眼薬が選択されます。
点眼薬は、毎日忘れずに点眼することが重要です。点眼方法を間違えると、十分な効果が得られないことがあります。医師や薬剤師から正しい点眼方法を指導してもらい、きちんと守って点眼するようにしましょう。また、点眼薬には副作用が現れることもあります。気になる症状が現れた場合は、すぐに医師に相談してください。
緑内障の治療は、根気強く続けることが大切です。点眼薬をきちんと使用し、定期的に眼科を受診することで、緑内障の進行を遅らせることができます。
点眼薬だけでは眼圧が十分に下がらない場合や、点眼薬による副作用が強い場合は、レーザー治療が検討されます。レーザー治療には、選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT)や、レーザー虹彩切開術(LI)などがあります。SLTは、房水の排出を促進するレーザー治療で、開放隅角緑内障に用いられます。LIは、虹彩に小さな穴を開け、房水の流れを改善するレーザー治療で、閉塞隅角緑内障に用いられます。
レーザー治療は、点眼薬に比べて副作用が少ないとされていますが、合併症のリスクもあります。治療を受ける前に、医師から十分な説明を受け、リスクとベネフィットを理解した上で、治療を受けるかどうかを判断することが重要です。
レーザー治療後も、定期的な眼科受診が必要です。眼圧のコントロール状態や、合併症の有無などを確認するために、医師の指示に従って定期検診を受けましょう。
点眼薬やレーザー治療では眼圧が十分にコントロールできない場合、手術が必要となることがあります。緑内障の手術には、線維柱帯切除術(トラベクレクトミー)や、チューブシャント手術などがあります。トラベクレクトミーは、房水の新しい流出路を作成する手術で、眼圧を下げる効果が期待できます。チューブシャント手術は、眼内にチューブを挿入し、房水を眼外に排出する手術です。
緑内障の手術は、他の目の手術に比べて合併症のリスクが高いとされています。手術を受ける前に、医師から手術の内容やリスク、術後の注意点などについて十分な説明を受け、納得した上で手術を受けるようにしましょう。
手術後も、定期的な眼科受診が必要です。眼圧のコントロール状態や、合併症の有無などを確認するために、医師の指示に従って定期検診を受けましょう。手術後の視力回復には時間がかかる場合もあります。焦らずに、医師の指示に従ってリハビリテーションを行いましょう。
緑内障と診断された場合でも、日常生活を大きく変える必要はありません。しかし、緑内障の進行を遅らせるために、いくつか注意すべき点があります。まず、喫煙は緑内障の進行を早める可能性があるため、禁煙することが望ましいです。また、過度のアルコール摂取も眼圧を上昇させる可能性があるため、控えめにしましょう。
適度な運動は、全身の血行を促進し、眼圧を下げる効果があると言われています。ウォーキングやジョギングなどの有酸素運動を、無理のない範囲で行うようにしましょう。ただし、激しい運動や、息を止めるような運動は、眼圧を上昇させる可能性があるため、避けるようにしましょう。
食事に関しては、特に制限はありませんが、バランスの取れた食事を心がけましょう。抗酸化作用のあるビタミンCやビタミンE、ルテインなどを積極的に摂取すると良いでしょう。
緑内障は、進行性の病気であるため、定期的な眼科受診が非常に重要です。定期検診では、眼圧検査、眼底検査、視野検査などを行い、緑内障の進行度合いをチェックします。医師は、これらの検査結果に基づいて、治療計画を見直したり、点眼薬の種類や量を調整したりします。
定期検診の頻度は、緑内障のタイプや進行度合いによって異なります。医師の指示に従い、適切な頻度で定期検診を受けるようにしましょう。また、定期検診の際には、気になる症状や、日常生活での困りごとなどを、遠慮せずに医師に相談することが大切です。
緑内障は、放置すると失明に至る可能性もある病気ですが、早期に発見し、適切な治療を継続することで、進行を遅らせることができます。定期的な眼科受診を欠かさず、緑内障と上手に付き合っていきましょう。
緑内障と診断された時は、ショックや不安を感じるかもしれません。しかし、悲観的になる必要はありません。緑内障は、早期発見と適切な治療によって、進行を遅らせることが可能な病気です。医師と協力して、治療計画を立て、積極的に治療に取り組むことが大切です。
また、緑内障に関する情報を集め、病気について理解を深めることも重要です。インターネットや書籍などを活用して、緑内障に関する正しい知識を身につけましょう。緑内障の患者会に参加し、同じ病気を持つ人たちと交流することも、精神的な支えになるでしょう。
緑内障と診断されたからといって、諦める必要はありません。前向きな気持ちで、治療に取り組み、充実した生活を送ることができるように、努力しましょう。医師や家族、友人などのサポートを受けながら、緑内障と上手に付き合っていきましょう。
緑内障は、自覚症状が出にくい病気ですが、早期発見と適切な治療によって進行を遅らせることが可能です。40歳を過ぎたら、定期的な眼科検診を受けるように心がけましょう。特に、緑内障の家族歴がある方や、近視が強い方は、早めに眼科を受診することをお勧めします。
緑内障と診断された場合は、医師の指示に従い、点眼薬などの治療を継続することが重要です。日常生活においては、禁煙、適度な運動、バランスの取れた食事などを心がけましょう。また、緑内障に関する情報を集め、病気について理解を深めることも大切です。
緑内障は、失明の原因となる病気ですが、適切な治療と生活習慣によって、視力低下を防ぎ、快適な生活を送ることができます。前向きな気持ちで緑内障と向き合い、医師や家族、友人などのサポートを受けながら、充実した人生を送りましょう。
加齢黄斑変性や糖尿病網膜症など、他の目の病気にも注意し、気になることがあれば眼科医に相談しましょう。白内障手術を受けた方も、定期的な検診が重要です。サプリメントとしてルテインやゼアキサンチンを摂取することも考慮しましょう。これらの栄養素は、目の健康をサポートする効果があると言われています。
緑内障は、決して克服できない病気ではありません。早期発見と適切な治療、そして前向きな気持ちが、緑内障と上手に付き合っていくための鍵となります。
・眼圧検査
・眼底検査
・視野検査
・眼圧下降薬点眼
・外科的治療(レーザー、流出路再建術、濾過手術、チューブシャント手術、低侵襲緑内障手術等)